このサイトでまさか文芸誌について書く日が来ようとは(笑)。

 講談社の『群像』8月号に巻頭で掲載されている長編小説「だいにっほん ろんちくおげれつ記」(笙野頼子・著)。新聞の文芸欄で見かけて即ゲットしてみたのですが、何とも言えないテイストにあふれた、あらゆる意味で「すごい」作品でありました。

【あらすじ】
 舞台は2060年のS倉市(利根川が近いことから千葉県佐倉市のことだろう)。この時代、既に日本は日本ではなく「だいにっほん」となっていた。そして、「おんたこ」と呼ばれる者に支配される「だいにっほん」の価値観は、すべて『ロリコン』に集約されていた…(爆笑)。

 そう、全てが「ロリコン」のためにある世界。よって、理想きょ…悪夢のような描写が目白押しです。
 輸出産業は「アート」と称するロリコン文化だし、「近代文学」は『少女強姦シーンだけを点数制で評価される』し、グラビアにはチャイルドポルノが躍り、「徴用」された14歳以下の美少女によって構成される「戦闘美少女軍」が要人の家に「警護」の名目で配備され、「子供が自由に性的快楽を享受する権利」や「児童がポルノに出演し自己実現する自己決定権」という権利はあるが自己決定権に基づいて嫌だとは自己決定できず(苦笑)、「遊郭」で働く女性が18歳で事実上追い出され、「おとなっぽい女性が好き」だと「おぞましい変態」扱いされ、成人女性に「萎えー」を絶叫すると褒め称えられ、その成人女性は家庭に縛り付けられて家事と介護を強要されるが夫はロリコンだから遊郭に行く(笑)という物凄い社会。おかげで「結婚年齢が十三歳に引き下げられている」と書かれても「そんなに高いの?」と思ってしまいます(笑)。
 小学校の授業からして、

 この妹が小学校で嫌だったのはおんたこ課の授業で「妹」とか「セーラー服」とか「かわいいスチュワーデスタン」、「可愛いナースタン」というような課題を与えられて、演技や作文させられることばかりではなかった。


 ですから(爆笑)。
 また、この話は宗教面の色が強いのも特色ですが、

 今では潰されるの嫌さにどこの神社でも、(中略)産業振興のため巫女萌えグッズが作りまくられ、神様は全部アニメ風のキャラクターに変えられている。その上実際に働いている巫女は全員猫耳とかタコ足を付けた児童巫女である。とどめ、西洋哲学誤用の好きなおんたこは必ずこう言ってくる。

 ギリシアの巫女は元々売春をしていた、と。


 と、この有様で、あまりのデンジャラスぶりに、作者がわざわざ「いやいやこれは登場人物の勝手な言い草ですよ」と注釈を入れるほどです(笑)。
 しかし、この社会で「崇拝されるネット内美少女」というのが、「十二歳でジジェク、ヘーゲルも押さえているという天才少女という設定になっていて、その上顔は後藤久美子、スタイルは神田うの」というのはどうなのよ、という気もします(苦笑)(読者層を考えるとこれは仕方ないか? 小説というものは読者にイメージさせてナンボだし)。

 で、どういう話かというと、これがさっぱりわからないんですよね(汗)。主人公の火星人である「埴輪いぶき」が夜の街を歩き回ったりいろいろなことに出くわしたり家族のことを思い出したりという中に、「笙野頼子」という百歳を越える老婆が著述した文章がクロスオーバーする構成なのですが、ロリコンに限らず、オタクカルチャー、匿名掲示板(笑)、格差社会、ネオリベラリズム、政治史、宗教史、日本書紀、古墳や埴輪や土偶、吉本隆明の対談などが全て渾然一体となったカオス状態となっていて、とにかく難解。「結局火星人って何なの?」と考え出すと夜も眠れません(「火星人落語」ってなんだぁぁ!)。さらに利根川の向こうにあるという「女性しかいない」「隣国」の「ウラミズモ」の存在や、「死んだ」女性が中に入る「フィギュア」が絡んできて、謎っぷりに拍車がかかってます。

 この作品、ぱっと見ではオタク・ロリコン批判に見えますが、

 素直にオタク文化を楽しんでいた気弱なオタクなど結局おんたこの餌食に過ぎなかった。おんたこはオタクマネーを狙い、職人気質なアングラカルチャーの人々をアカデミズム用語で脅しつけた上、利権化し、根こそぎ搾取し、後は当の創始者的オタクを糾弾したのであった。


 というくだりにニヤリとさせられるなど、オタクを叩くものではないことは明らかです(まあかなり皮肉っぽく書かれてはいますが)。
 この「おんたこ」が政権を握るプロセスにしても、

 最初、オタク文化は秘められて愛好されていた。が、オタクグッズ所有者の起こした幼女殺人事件を機に、すべて非難され叩かれるようになった。これをタコグルは評論活動のダシに遣い、同時に空想ロリコンと幼女殺人を結びつける論陣を張った。(中略)

 まず表現の自由を真面目に擁護したいものはペド呼ばわりが嫌でやめてしまう。エロ業者でも犯罪とは関係ないという一線を引いている者に対してタコは、ここをぐさぐさにして論争しようとする。


 とあるなど、「今進みつつある事態」に対して皮肉めいた一考察を痛烈に加えてもいます。そう、「おんたこ」はもうそこにいるのです(笑)。
 どっちかというと、ネオコン・市場万能主義批判的な色彩が強いと私は思います。ただ、隠喩があっちこっちに使われてて、それを読み解くのも一苦労なのですが(汗)。おまけに、この後になんでロリコン大国と化したのかが、読んでも今ひとつ良くわからないんです(汗)(ナチスが政権を握った時のようなもんですかねぇ?)。

 まあとにかく「すごい」作品です。ぜひとも!とは言いませんが、読んだ上で作品を理解できた方は、できれば作品解説をしていただけると助かります(汗)。これ、シリーズ3作目らしいので、前の2作品を読めば少しはわかるのかなぁ…?
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